東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)175号 判決 1981年3月30日
原告
X2
原告
X1
右法定代理人親権者父
A
同母
X2
右訴訟代理人
鍛冶千鶴子
同
永石泰子
同
伊東すみ子
同
若菜允子
被告
国
右代表者法務大臣
奥野誠亮
右指定代理人
一宮和夫
同
遠藤洋一
主文
原告X2の訴えを却下する。
原告X1の請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた判決
一 原告ら
1 原告らと被告との間において、原告X1が出生により日本国籍を有することを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 原告X2の訴えを却下する。予備的に、同原告の請求を棄却する。
2 原告X1の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
(請求原因)
一 日本国籍を有する原告X2(以下「原告X2」という。)とアメリカ合衆国(以下「米国」という。)国籍を有するAは、昭和四六年三月一九日日本において法律上の婚姻をしたものであり、原告X1(以下「原告X1」という。)は、昭和五三年一一月二五日群馬県前橋市日吉町二丁目四六二番地において右両名の間に生まれた子である。
原告X1の両親は、今後とも日本に居住し日本に生活の本拠をおいて仕事を続けていくこともあつて、原告X1を日本人として養育したいと考え、原告X2が昭和五三年一二月四日前橋市長に対し、原告X1の出生届をするとともに同原告を原告X2の戸籍に入籍させるように申し出た。ところが、国籍法(昭和二五年法律第一四七号)二条は、出生により日本国籍を取得する場合として、「出生の時に父が日本国民であるとき」(一号)、「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき」(二号)、「父が知れない場合又は国籍を有しない場合において、母が日本国民であるとき」(三号)及び「日本で生れた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」(四号)のいずれかに該当することを必要としているため、前橋市長は、同日付書面をもつて、国籍法二条各号の規定により原告X1は出生により日本国籍を取得できず母の戸籍に入籍させられない旨を通知してきた。
二 しかし、国籍法二条一号ないし三号の規定は、以下のとおり、違憲である。《以下、判決と同趣旨なので省略――編注》
三 そこで、出生による日本国籍の取得については、父母の血統を平等に扱うべきであり、国籍法二条一号は、出生の時に父又は母が日本国民であるとき、同条二号は、出生前に死亡した父又は母が死亡の時に日本国民であつたとき、を意味するものとして解釈すべきである。したがつて、出生の時に母が日本国民である原告X1は、出生により日本国籍を取得したものである。
四 よつて、原告X1が日本国籍を有することの確認を求める。
(請求原因に対する認否)
請求原因一は認め、二、三は争う。
(被告の主張)
一 原告X2の訴えは不適法である。
原告X2は、原告X1とは人格を異にし、原告X1の日本国籍確認請求を行うについて独立の法律上の利益を有するものではない。したがつて、原告X2の本件訴えは、原告適格を欠くものとして却下されるべきである。
二 出生による日本国籍の取得について定める国籍法の規定に関しては、次のとおりそもそも憲法問題は生じない。
《以下判決と同趣旨なので省略――編注》
(被告の主張に対する原告らの反論)
一 原告X2に確認の利益があることについて
一般に、法律上の身分関係存否確認の訴えの利益は、当該身分関係を有する本人だけではなく、これと一定の身分関係を有する利害関係者に対しても認められるものであり、国籍確認の訴えのごとき公法上の身分関係存在確認の訴えの場合も、もとより同列に論じられるべきである。ところで、原告X2は、原告X1の母として一親等の直系血族関係にあり、原告X1を監護養育する権利義務を有するから、原告X1が出生により原告X2の有する日本国籍を継承取得したことについて最も切実な利害関係を有するものである。
したがつて、原告X2は、原告X1とは別に、原告X1の日本国籍存在確認を求める訴えの利益を有するものであり、被告の本案前の主張は失当である。
二 出生による日本国籍の取得が憲法問題であることについて 《以下判決と同趣旨なので省略――編注》
三 国籍法二条一号ないし三号の差別に合理性がないことについて 《以下、判決と同趣旨なので省略――編注》
四 国籍法二条一号ないし三号の規定が違憲であれば、原告X1が日本国籍を取得することについて 《以下、判決と同趣旨なので省略――編注》
第三 証拠<省略>
理由
一米国国籍を有するAと日本国籍を有する原告X2とが昭和四六年三月一九日日本において婚姻したこと、原告X1が昭和五三年一一月二五日群馬県前橋市日吉町二丁目四六二番地において右両名の間に出生した子であること、原告X2が同年一二月四日前橋市長に対し原告X1の出生届を提出し自己の戸籍に原告X1を入籍させるよう申し出たが、国籍法二条各号の規定により原告X1が日本国籍を取得していないとの理由により右入籍を認められていないことは、当事者間に争いがない。
なお、原告X1法定代理人兼原告本人X2の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は出生により父の本国である米国の国籍を取得していることが認められる。《以下、二〜四、判決と同趣旨なので省略――編注》
五原告X1は、日本人たる親はその子に自己の日本国籍を継承させ、子は親の有する日本国籍を取得する権利を憲法上保障されている旨主張するが、右主張のような日本国籍の継承権又は取得権を具体的に保障されていると解すべき根拠のないことは三で述べたとおりである。したがつて、右権利のあることを前提とした憲法一三条及び一四条違反の主張も失当である。
六以上によれば、国籍法二条一号ないし三号の規定を違憲とする原告X1の主張はいずれも理由がないというべきである。
そして、右国籍法の規定と一に記載した事実によれば、原告X1は出生により日本国籍を取得することができないものというほかはない。
七よつて、原告X2の訴えを却下し、原告X1の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(佐藤繁 泉徳治 岡光民雄)